昼下がりの練習場。
平日のこの時間は、どこか同じような顔ぶれが並びます。
その一角で、田中さんが小さくつぶやきました。
「……ちゃんと、やってるつもりなんだけどね」
その声は、周りの打球音に紛れて、静かに消えていきました。
田中さん、67歳。
定年までメーカーの技術職として、緻密な計算と努力で現場を支えてきた方です。
いわば、“努力のプロ”。
真面目で、誠実で、そして少し頑固なほど、一生懸命。
やると決めたら、とことんやる。
現役時代のゴルフは、いわゆる“付き合い程度”。
スコアは気にしない。
誘われたら行く。
終わったら忘れる。
そんな距離感でした。
ところが定年を迎えてから、少し変わります。
「せっかく時間もできたし、一度ちゃんとやってみようと思って」
きっかけは、ほんの軽いものだったと思います。
でも田中さんは、やると決めたらやる人でした。
最新の理論を見つけては試し、プロのスイング動画をスローで見て、自分なりに確かめていく。
練習場では、誰よりも長く打ち続けていました。
——なのに、結果が出ない。
練習すればするほど、なぜかスコアは遠ざかっていきました。
気づけば、「楽しい」はずのゴルフが、自分を責める時間に変わっていました。
私はその横顔を見ながら、胸の奥が少し痛くなりました。
田中さんは今、全力で頑張っているのに、どこか噛み合っていない状態でした。
力を使いすぎる。
届かない距離を狙う。
体に負担のかかる振り方をする。
どれも珍しいことではありません。
でも田中さんは、
それをすべて“真面目に”やってしまっていたんです。
だから、頑張れば頑張るほど、少しずつズレていく。
そんな状態でした。
その後、田中さんはスクールに通うことを決めます。
それが、私との出会いでした。
初めてのレッスンで、田中さんは少し背筋を伸ばして言いました。
「安定して100を切りたいんです」
少し間があって、
「できれば……もう少し楽に」
と、続けました。
その一言を聞いて、
私はひとつだけ決めました。
——頑張らせないようにしよう
田中さんに必要だったのは、努力の量ではなく、方向でした。
・力を使わないゴルフ
・ミスを重ねないゴルフ
・道具を活かすゴルフ
努力より、脱力。
筋トレより、柔軟性。
見栄より、結果。
若い頃のように飛ばす必要はありません。
特別なことも、しません。
ただ、
“今の体に合ったやり方”に変えるだけです。
その瞬間から、
田中さんのゴルフは、静かに変わり始めました。
——そして3ヶ月後。
田中さんは、まるで別人のような表情でグリーンに立っていました。
「なんか、普通に回っただけなんだけど」
そう言って首をかしげる手には、
長年越えられなかった
“100の壁”を超えたスコアカード。
これは、
特別な才能を持つ人の話ではありません。
むしろ逆です。
真面目で、一生懸命で、
だからこそ遠回りしてしまう——
そんな人の物語です。
なぜ努力が報われないのか。
なぜ力を抜くほど、ボールは飛んでいくのか。
ここから始まるのは、「やらなくていいこと」を捨てたときに起きる、大人の逆転劇です。
この物語は、田中さんが100を切るまでに行ったレッスン内容を、全10話でまとめています。
あなた自身の“逆転のヒント”が、きっとその中にあります。



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