最初から読む
「田中さん、バンカーはどうですか?」
「……正直、苦手すぎて、もうどうしていいか分かりません」
完全に気持ちが折れている声でした。
その日、私たちは練習場のバンカーエリアにいました。
砂を均して、ボールをセット。
「じゃあ、一度打ってみてください」
田中さんは慎重に構えて、ゆっくりクラブを引いて……
カッツン!
——ホームラン。
ボールはグリーンを大きく越えていきました。
「あ……」
「もう一球、どうぞ」
今度は手前を意識しすぎて——
——ザクッ。
ヘッドが砂に深く刺さって、ボールは数センチしか動きません。
もう一球。
また一球。
打つたびに田中さんの表情が曇っていきます。
7球打って、グリーンに乗ったのは1球だけでした。
「田中さん、フェースを開いて打とうとしていますよね」
「はい、教わった通りにやってるんですが……」
「どこで教わりましたか?」
「YouTubeで。あと、ゴルフ雑誌にも書いてあって」
なるほど、と思いました。
知識はある。映像も見ている。頭の中ではわかっている。
でも——
身体が、一度も成功を覚えていない。
フェースを開く感覚。砂に入れる角度。爆発させる力加減。
これは説明を読んで身につくものじゃない。何百球も打って、やっと手に馴染んでくるものです。
「田中さん、週に何球バンカーを練習できますか?」
少し考えて、答えました。
「……ここに来たときだけなので、月に20球くらいですかね」
月に20球。
それで「技術を習得しろ」というのは、最初から無理な話です。
「一つ、試してみてください」
私は1本のクラブを田中さんに渡しました。
「これ、普通のSWと形が違いますね」
底の部分が、明らかに幅広です。
「バンカー専用のウェッジです。フェースは開かなくていいです。普通に構えて、普通に振ってください」
「……普通に、ですか」
「それだけです」
田中さんは半信半疑のまま構えました。
フェースのことも、砂の手前のことも、何も考えない。ただいつも通りに振る。
——ポン。
乾いた音がして、ボールがふわりと上がりました。
グリーンへ、静かに落ちていきました。
田中さんはしばらく、その場に立ったまま動きませんでした。
「……出た」
続けて打ってもらいました。
2球目。出た。3球目。出た。4球目も、出た。
7球打って、6球がグリーン周りに収まりました。
さっきと、同じ人間とは思えません。
でも田中さんは、何も上手くなっていません。
急に技術が身についたわけでも、長年の練習が実を結んだわけでもない。
クラブを変えただけです。
バンカー専用ウェッジは、構造が根本的に違います。
ソールが広いから砂に刺さらない。バウンスがあるから、ヘッドが砂の上を自然に滑る。フェースを開かなくても、十分な高さが出る。
ミスしても、助かる設計になっている。
「これって……ズルじゃないですか?」
田中さんが笑いながら言いました。
私は真顔で答えました。
「ルール違反じゃありませんよ!」
14本を何にするかは、あなたが決めていい。
苦手なクラブを使い続ける義務は、どこにもない。
月20球の練習で習得できない技術を、コースで出す必要もない。
「もう一回、最初のクラブで打ってみますか?」
田中さんは少し考えて、首を振りました。
「……いいです。もうこっちにします」
それで十分です。
怖くなければ身体が動く。
身体が動けばボールは出る。
ボールが出れば、スコアになる。
練習できないなら、道具に任せる。
難しい技術を積み上げるより、苦労を一つ引く方が、スコアははるかに早く縮まります。
頑張ることが、いつも正解とは限りません。
あなたはどちらを選びますか。
出ないSWか、 出る専用ウェッジか。
苦手を道具で補うのは、ズルでも逃げでもありません。
それは『賢い選択』です。
そして何より——
この1本に替えるだけで、バンカーのストレスが消えます。
練習しなくても、普通に振るだけで“出る”ようになります。
田中さんも、このウェッジに替えた日から 「バンカーが怖くなくなった」と言いました。
私が田中さんに薦めたウェッジを紹介します。



コメント