【第10話】なぜ100切り目前で崩れるのか?|残り3ホールの“欲”がスコアを壊す

100切り 100切り物語
100切りを目指すシニアゴルファーとコーチのレッスンを描いた連載です。
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夕暮れが迫るゴルフ場。

15番ホールを終えた田中さんは、スコアカードを二度見した。

83打。

「……あと、ボギー、ボギー、ダボでも、99だ」

心臓の鼓動が、耳元まで響くほど大きくなった。

あんなに高かった100の壁。 なのに今日、あと3ホールで、100切りが見える。

すべては、この瞬間のためにあった。

だがゴルフの神様は、ここからが一番意地が悪い。

16番ホール パー4

右には深いバンカー、左は浅いOB。

ドライバーを構えた瞬間、頭の中で計算が始まった。

ここでパーを取れば、最後が楽になる——。

気づかないうちに、グリップに力が入っていた。 あれほど練習してきたユルユルグリップが、欲と一緒に固まっていく。

——待て。

コーチの声がよみがえった。

「欲が出た瞬間、スイングは必ず速くなる」

田中さんは、一度クラブを下ろした。

深呼吸をひとつ。

ボギーでいい。フェアウェイに置くだけでいい。

ゆっくり上げて、ゆっくり下ろす。

——パシュッ!

ボールはフェアウェイの真ん中で、静かに止まった。

その後も淡々と。 無理せず、刻んで、転がして。

ボギー。

田中さんは小さくうなずき、17番へ歩いた。

17番ホール パー4

右の林が深く、フェアウェイは細く、距離も長い難所。

ティーショットは軽く振った。 フェアウェイ左サイド。十分だ。

問題はセカンドだった。

残り180ヤード。 5番ウッドで届くかどうか、微妙な距離。

田中さんは、ほんの少しだけ“欲”を出した。

「乗せたい……」

その一瞬の迷いが、スイングをわずかに速くした。

——カシュッ!

打った瞬間にわかった。 フェースが開いた。 ボールは右へ、右へ、右へ…… 林の手前の深いラフに沈んだ。

「しまった……」

3打目は、出すだけで精一杯。 ボールはグリーン手前にショート。

4打目のアプローチは、少し強く入り、 カップを2.5メートルオーバー。

返しのパットは、カップの右をかすめて外れた。

ダボ。

田中さんは、静かに息を吐いた。

「……これが、17番の罠か」

でも、崩れてはいない。 まだ、99が見えている。

18番ホール パー4

ティーグラウンドに立つと、 まっすぐ伸びるフェアウェイの先に、 クラブハウスが夕日に照らされていた。

フェアウェイ左はOB、右は深いラフ。 真ん中のフェアウェイは細い一本の帯のようだ。

ここは、飛ばす必要はない。 置きにいくティーショットが正解。

田中さんは、ドライバーを握った。

「まとめようとするな。  いつも通りだ。」

ゆっくり上げて、ゆっくり下ろす。

——パシュッ!

ボールはフェアウェイ右サイド、 安全な位置に静かに落ちた。

2打目。残り150ヤード。 グリーンは奥に広く、手前は花道。

ピンは右奥だが、狙わない。

「グリーンセンターでいい。」

7番アイアンで軽く打つ。

——トン。

ボールは花道に落ち、 グリーン手前10ヤードに止まった。

3打目は“転がすアプローチ”。 9番アイアンで、パターのようにストロークする。

コロコロと転がったボールは、 カップ手前2.5メートルで止まった。

ここから2打でいい。

カップを狙いたい気持ちを押さえ、 距離感だけを意識した。

「力を抜け……」

そう言い聞かせたが、体は正直だ。 少しパンチが入り、40センチほどオーバー。

——ここが勝負だ。

田中さんは、カップの前に立った。

40センチ。

深呼吸をひとつ。

入れにいかない。 ただ、そっと転がすだけ。

——コトン。

ボールがカップに吸い込まれた。

田中さんは、ゆっくりと顔を上げた。

夕日が、フェアウェイを金色に染めていた。

99。

派手なショットはひとつもなかった。 でも、崩れなかった。

それが、今日のゴルフだった。

田中さんは、両手を静かに突き上げた。

「100切り目前のミスは、欲のせい。」
「守りたい」「あとボギーでいい」という計算が、動きを硬くします。
最後は技術じゃありません。

「無理に狙わない」と決めること。
それだけで、100は勝手に切れます。

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