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練習場ではあんなに安定していたのに、コースに行くとスコアがまとまらない。
18ホールを終えた田中さんは、スコアカードの「108」という数字を見て、深いため息をつきました。
コーチは、田中さんのスコアカードを指差して言いました。
「田中さん、この4番ホールの『8』何があったんですか?」
「あぁ……。ピンが池のすぐ先にあったので、狙いに行ったんです。そうしたら力んで池に入れてしまって。打ち直しも焦ってミスして、パニックになってしまいました」
「なるほど。実は、それが100を切れない最大の原因です」
コーチは、きっぱりと言い切りました。
「田中さん、今日から意識するのは、たった一つです。
『ピンを狙わず、グリーンの真ん中だけを狙う』これだけにしてください」
「えっ? 真ん中ですか? でも、せっかくならピンの近くに寄せたいじゃないですか」
田中さんの反論に、コーチは穏やかに首を振りました。
「いいですか、田中さん。ゴルフ場の設計者は意地悪なんです。ピンをわざと『池のすぐそば』や『深いバンカーの近く』に立てます。つまり、ピンを狙うということは、一番リスクの高い場所を狙わされているということなんです」
「……罠に飛び込んでいた、ということですか」
「そうです。100を切るために必要なのは、ミラクルショットではありません。
『池や崖といった致命的なミスをしないこと』。それだけなんです」
コーチは、グリーンの図を描いて説明しました。
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ピン(端)を狙う: 少しでも左右にズレれば、すぐに池に落ちたり、深いラフに捕まる。
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真ん中を狙う: 左右に10ヤードズレても、まだグリーンに乗っている。もし外れても、第5話でやった「転がしアプローチ」が使える安全な場所に残る。
「真ん中を狙えば、たとえショットが少しブレても大怪我はしません。ピンを狙って池に入れたら、そこで試合終了ですから」
「でもコーチ、ピンを無視するなんて、なんだか逃げているようで……」
「逆ですよ。センターを狙うのは、最も賢い『戦略』です。
それに、センターを狙うと決めると、不思議と体の力みが消えるんです」
「力みが消える?」
「はい。『池に入れたくない』『ピンに寄せたい』と欲が出るから、体は固くなります。
でも、広いグリーンの真ん中なら『あの辺でいいや』とリラックスできる。
結果的に、スイングがスムーズになり、ミスの確率自体が減るんです」
田中さんは、ハッとしました。 大叩きしたホールでは、確かにピンしか見ていなかった。
その「欲」が、無意識に体を硬くし、池へのミスを招いていたことに気づいたのです。
「田中さん、全部ボギーならスコアは『90』です。ピンを狙って『あわよくばパー』を狙う色気は、今日から引き算しましょう。真ん中を狙って、確実にボギーを拾っていく。これが100切りの最短ルートです」
「……ピンという『色気』を引き算して、センターという『安全』を足すわけですね」
田中さんは、ゆっくりと背筋を伸ばしました。
「狙わない」という勇気。
それこそが、100の壁を突破するための、最後のピースになるかもしれない。
実は、ピンを狙うのをやめるだけでスコアは変わります。必要なのは、技術ではなく「欲を引き算する勇気」です。
次のラウンド、一度もピンを狙わず「グリーンの真ん中」だけを狙ってみてください。スコアカードを書き終えたとき、かつてないほど穏やかな数字が並んでいるはずです。



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