【第4話】100切りできないシニアが知らない『200ヤードのアプローチ』ドライバーは飛ばす道具じゃない。

ドライバー 100切り物語
100切りを目指すシニアゴルファーとコーチのレッスンを描いた連載です。
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1カ月が経った。

田中さんは、約束を守った。
来る日も来る日も、練習場の端の打席でPWを握り続けた。

PWで30ヤード、50ヤード、70ヤード
——それだけを、ただ繰り返した。

隣では若い人たちがドライバーを振り回している。
「ナイスショット」の声が聞こえる。

田中さんは、振り向かなかった。
——振り向いたら、負ける気がしたから。

その日、私はいつもどおり田中さんの隣に立った。

そして、一言だけ言った。

「今日、ドライバーを出しましょうか」

「……やっと、ですね」

「打つ前に一つだけ。PWで70ヤード打ったとき——どんな感覚でしたか」
「力まずに、ただ通した感じ、ですかね。振ったというより……ボールの前をクラブが通過した、みたいな」
「いいですね。じゃあ、そのつもりでドライバーを振ってください。PWで70ヤード打つつもりで」
「……PWで70ヤードのつもりで、ドライバーを?」
「そうです。200ヤード先に運ぶアプローチだと思って振ってください。飛ばそうとしなくていいですよ」
「……それだけですか」
「それだけです」

田中さんは、少し笑った。
信じきれてはいないが、信じてみる、という顔だった。

構えた。
1カ月前とは、まるで違った。
肩に力がない。
足に余分な踏ん張りがない。
飛ばしてやろうという気配が、どこにもなかった。

シュパッ !

乾いた音が一つ。

ボールは低く、鋭く出た。
「飛んだ」というより「運ばれた」
——そんな弾道だった。

右にも左にも逃げず、ただ真っすぐ、前へ伸びていった。

田中さんはしばらく、その白い点を目で追い続けた。
それから、ゆっくりこちらを向いた。

「……なんで、曲がらないんですか」
「PWのときと、感覚はどうでしたか」
「同じでした。力んだつもりは全然ない。なのに、ちゃんと飛んだ」
「それが答えです」

私はそこで、田中さんに言った。

「ドライバーは、200ヤードのアプローチだと思ってください」

田中さんは、少し首をかしげた。

「200ヤードの、アプローチ??」

その言葉を、不思議そうに繰り返した。

「アプローチのとき、マン振りしますか」

「……しないですね。距離を合わせるものだから」

「ドライバーも、同じです」

目的は距離じゃない。
次が打てる場所に置くこと——それだけだ。

「7割で振れば芯に当たる。芯に当たれば曲がらない。曲がらなければOBがなくなる」

田中さんの目が、少し遠くなった。

「……OBさえなければ、って何度思ったか。あの一打さえなければ、って」
「そのOBを打っていたとき、ドライバーで何をしようとしていましたか」
「……飛ばそうと、してました」
「今日は?」
「……運ぼうと、してました。気づいたら」

ドライバーは変わっていない。
グリップも、シャフトも、ヘッドも
——1カ月前と同じだ。

変わったのは、田中さんの中にある「ドライバーの意味」だった。

もう一球、田中さんは構えた。
何も聞いてこなかった。
ただ静かに、PWの70ヤードを打つつもりで、クラブを通した。

シュパッ!

また、真っすぐだった。

田中さんはクラブをゆっくり下ろして、ぽつりと言った。

「……今まで、何と戦ってたんですかね、私」
「頑張ってたんです。間違った方向に、全力で」

250ヤード飛んでもOBなら意味がない。
180ヤードでもフェアウェイなら、100切りは目前です。

「200ヤードのアプローチ」
こんなティーショットをどう思いますか。

「ちょっと物足りない」と思いましたか?

でも、100切りに必要なのは飛距離じゃない。

OBがないこと。
ペナルティがないこと。
次を普通に打てること。

それが、100切りへの最短ルートです。

\続きを読む/第5話 転がすアプローチ

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